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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)10757号 判決 1973年1月23日

原告

山崎純

ほか二名

被告

小池康

ほか一名

主文

(1)  被告両名は連帯して、原告山崎鈴恵に対し金四〇四万五、五九三円、原告山崎純および原告山崎絵里に対し各金五〇〇万円ずつ、ならびに、これらに対する各昭和四六年三月三日より完済迄年五分の割合による金員の支払をせよ。

(2)  被告小池康は、原告山崎鈴恵に対し金四〇四万五、五九三円に対する、原告山崎純および原告山崎絵里に対し各金五〇〇万円ずつに対する、いずれも昭和四五年一一月一六日より昭和四六年三月二日迄年五分の割合による金員の支払をせよ。

(3)  原告山崎鈴恵のその余の請求をいずれも棄却する。

(4)  訴訴費用は、原告山崎鈴恵と被告ら間に生じたものはこれを五分し、その一を原告山崎鈴恵の負担、その余は被告らの連帯負担とし、その余の原告らと被告ら間に生じたものは被告らの連帯負担とする。

(5)  この判決第一、二項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

一  原告ら(訴訟代理人)

(一)  被告両名は連帯して、原告三名に対し各金五〇〇万円ずつ、およびこれらに対する昭和四六年三月三日より各完済迄年五分の割合による金員の支払をせよ。

(二)  被告小池康は、原告三名に対し各金五〇〇万円に対する昭和四五年一一月一六日より昭和四六年三月二日迄年五分の割合による金員の支払をせよ。

(三)  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

二  被告小池(訴訟代理人)

(一)  原告らの請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決。

三  被告佐藤

(一)  原告らの請求をいずれも棄却する。

との判決。

第二原告ら主張の請求原因事実

一  事故の発生

訴外亡山崎邦保(以下亡邦保という)は、左記の交通事故で死亡した。

(一)  事故日時 昭和四五年三月一日午前三時四〇分頃

(二)  事故場所 東京都豊島区西池袋三丁目三一番地先

(三)  当事者

(1) 被告側

(イ) 被告車 普通乗用自動車(登録番号 練馬五せ五〇五一号)

右運転者 被告佐藤

(2) 被害者側

(イ) 被害者 亡邦保

(四)  事故態様 道路脇に佇立中の亡邦保に、被告車が衝突。

(五)  事故結果 亡邦保は頭蓋内損傷および頭蓋骨骨折の傷害のため即死した。

二  責任原因

被告両名は、それぞれ次のような事由から、本件事故について損害賠償責任を負う。

(一)  被告小池は、被告車の所有名義人で、右車を所有者としての立場から、自己のため運行の用に供していた者であるから、自賠法三条による責任を負う。

(二)  被告佐藤は、被告車を運転し、事故場所付近を進行中、運転開始前飲んだ酒類のため、ハンルド操作を確実に行なうことができなくなり、道路左側でタクシー待ちをしていた亡邦保に自車前部を衝突させ、本件事故をひきおこしている者であるから、民法七〇九条による責任を負う。

三  損害

本件事故によつて原告らが蒙つたことになる損害は次のとおりである。

1  亡邦保の逸失利益 金二、〇三一万〇、七五〇円

亡邦保は、本件事故によつて、金二、〇三一万〇、七五〇円相当分の利益を逸失した。その詳細は左記のとおりである。

(一) 事故時の年令 四〇歳(昭和五年一月八日生)

(二) 就労可能年数 六三歳迄二三年間

(三) 収入(年収) 金二〇二万五、〇〇〇円

(四) 生活費 収入額の三分の一

(五) 現在値換算方式 ホフマン年別複式 (係数一五・〇四五)

原告らは亡邦保の相続人のすべてである。そこで原告山崎鈴恵(以下原告鈴恵という)は生存配偶者として、原告山崎純および同絵里は亡邦保の子として、それぞれその法定相続分に応じ、右逸失利益相当損害賠償請求権を相続取得した。その額は結局原告ら三名いずれも金六七七万〇、二五〇円である。

2  原告らの慰藉料 合計金四〇〇万円

本件事故で原告らは、その夫あるいは父を瞬時に失うに至り、その精神的損害はきわめて大きい。これを金銭に評価すれば、原告鈴恵の蒙つた損害は金二〇〇万円で、その余の原告二名のそれは各金一〇〇万円ずつでもつて慰藉するのが相当である。

四  損害の填補

本件事故後これによつて生じた損害を填補するものとして、本訴提起前、自賠責保険金五〇〇万円が支払われ、そのうち金三〇〇万円が原告鈴恵の、各金一〇〇万円ずつがその余の原告らの、本件損害を填補するものとして弁済充当された。

五  結論

以上のとおりである。従つて原告鈴恵は、逸失利益相当分金六七七万〇、二五〇円、慰藉料金二〇〇万円の小計金八七七万〇、二五〇円より自賠責保険充当分三〇〇万円を控除した金五七七万〇、二五〇円の、その余の原告らはいずれも各逸失利益相当分金六七七万〇、二五〇円ずつ、慰藉料金一〇〇万円ずつの小計金七七七万〇、二五〇円ずつより自賠責保険充当分一〇〇万円ずつを控除した金六七七万〇、二五〇円ずつの、ならびにこれらに対する民事遅延損害金の各支払を、本件事故に関し請求しうる。しかし、本訴においては、とりあえず、各原告らは右損害賠償金の内金として、各金五〇〇万円ずつとこれらに対する本訴訴状送達の翌日(被告小池については昭和四五年一一月一六日、被告佐藤については昭和四六年三月三日)より各完済迄年五分の割合による民法所定遅延損害金の支払を高める。

第三被告小池の主張

一  請求原因事実に対する答弁

原告主張請求原因事実第一項は認める。

同第二項(一)のうち、被告小池が被告車の所有名義人であることは認めるが、その余の事実は否認する。右車は被告佐藤の所有するものであり、被告小池はこの運行についてなんらの支配を有さず利益も享受していない。かような車の所有名義人に被告小池がなつているのは、タイル業を営む同被告の下請業者である被告佐藤に、同人より乞われるまま右車購入代金を貸与してやつたため、その返済担保の意味で所有名義を自己のものとしただけのことに過ぎない。

被告小池は右車の運行についてはなんらの支配権限も利益もなく、その運行供用者とみることはできないのである。しかも、本件事故は被告佐藤が業務を終つてのち、飲酒のため街に被告車を運転して出ての帰途惹起したもので、業務より完全に離れた時点で発生したものであるから、被告小池がこれにつき運行供用者責任を問われるいわれはまつたくない。

同第二項(二)は不知。

同第三項(一)のうち、原告鈴恵が亡邦保の生存配偶者であり、原告純および同絵里が亡邦保の子であり、亡邦保の相続人であることは認めるが、その余の事実は不知。

同第三項(二)は争う。

同第四項は認める。

同第五項は争う。

二  抗弁

(一)  本件事故は、被告佐藤がその業務を終つてのち、飲酒のため街に被告車を運転して出ての帰途惹起したもので、その業務より完全に離れた時点で発生したものである。従つて、仮りになんらかの理由で被告小池が被告車の運行供用者だとされるとしても、本件事故時には、その地位を離脱していたのであるから、被告小池には損害賠償責任はない。

(二)  被告佐藤主張にかかる弁済の抗弁を援用する。

第四被告佐藤の主張

一  請求原因事実に対する答弁

原告主張請求原因事実第一項は認める。

同第二項(一)は否認する。本件被告車は被告佐藤の所有するところのものである。被告小池は、被告佐藤に、被告車購入代金を融資しただけの者である。それが所有名義人となつているのは登録手続に過誤があつたためである。被告車は被告佐藤が所有し、使用していたのである。

同第二項(二)は認める。

同第三項(一)のうち、原告鈴恵が亡邦保の生存配偶者であり、原告純および同絵里が亡邦保の子であり、亡邦保の相続人であることは認めるが、その余の事実は否認する。

同第三項(二)は争う。

同第四項は認める。

同第五項は争う。

二  抗弁

被告佐藤は本件事故による遅延損害金以外の損害填補のため原告鈴恵に対し金一万円の弁済をなした。

第五被告らの抗弁に対する原告らの認否

弁済の抗弁は認めるが、その余は争う。

第六証拠〔略〕

理由

(一)  (事故の発生)

原告主張請求の原因第一項(事故の発生)は当事者間にいずれも争いない。

(二)  (責任の所在)

(1)  そこで、本件事故に関し、被告らに損害賠償責任があるか否かを検討する。

(イ)  〔証拠略〕をあわせると次のような事実を認めることができる。

(A) 被告佐藤は、義務教育修了後、直ちにタイル工事店に勤務するようになり、約四年間の見習期間を終つて後は、タイル職人として諸方で稼働するようになつたが、昭和四四年一二月初旬頃よりは被告小池の職人を求める広告に応じ、職人が不足し、仕事を充分処理し切れない状態に悩んでいた同被告の下で業者仲間でいう「うけとり」という立場で同被告より仕事を請負う業務形態をとるに至つていた。その業務形態は、被告小池が建設業者などから請負つたタイル工事を納期に見合う仕事量分被告佐藤において下請けし、工事現場に被告小池が運び込んだ資材を使用し、被告佐藤が自宅より道具類を携えて現場に直接赴いて、殆んど定形的なタイル張りの工事に当り、出来高に応じて報酬を取得していたのである。被告佐藤がその工事現場に赴くため利用した交通機関は、被告車購入後は、すべて右車となつたが、その以前は電車を利用することを建前としていた。しかし、実際は携えていく道具などの関係上、車を利用しうるのが好都合なところから、被告小池の所有する貨物自動車を借受け、現場に赴くことも稀ではなかつた。そして、かゝる場合被告小池はその車を被告佐藤に貸与したことにつき、いかなる形態をもつてでも、対価に価するものを求めたことはなかつたのである。

(B) 右のような事情から、被告佐藤は、工事現場に赴くに際し、恒常的に利用しうる自動車の購入を希望するようになつた。しかし、蓄財のない同被告としては、車を入手するに入用ないわゆる頭金などの金員は被告小池に融資してもらうよりほか方途なく、そのこともあつて、被告佐藤は、既に車を所有し、自動車販売業者とも面識のある被告小池に対し、車の購入方の斡旋を依頼した。その際、被告佐藤は、被告小池に対し、前示のとおり工事現場迄道具類を運ぶ意図で車を必要とする旨申し述べたのではあるが、しかし当時の被告佐藤自身の仕事量などからして、貨物自動車でなく乗用自動車でも充分道具類を運びうるところから、あわせて休日のレジヤーにも利用しうる自動車を所有したく考え、被告小池には、購入する車の車種は乗用車としたい旨も申し述べたのである。

(C) 被告小池は、被告佐藤の右意図を了承して希望に添う車の入手に協力すべく、面識のある自動車販売業者にこの旨依頼していたところ、業者より売却方申し入れのあつたのが本件被告車であつた。被告小池より連絡を受けた被告佐藤も、その購入を決意したのであるが、右業者が代金の一括払を強く主張したため、被告佐藤は頭金のみにとどまらず、代金全額の融資を被告小池に申し入れることになつた。被告小池は、被告佐藤を長期に亘り下請業者として使いたく考えていたこともあつて、この依頼を容れ、右代金相当額金四〇万円を被告佐藤に、一〇カ月月賦で返済の約定の下、交付し、被告佐藤は右融資を得て昭和四四年一二月中旬頃被告車を購入するに至つた。その際、右販売業者の助言もあつて、被告らは被告車の所有名義人を被告小池とし、月賦金返済を担保することにした(被告車の所有名義人が被告小池であることは当事者間に争いない)のである。

(D) 被告佐藤は、被告車購入後、これを自宅におき、これに工事用道具類を常に積載しておき、毎朝右車を運転し、通例被告小池方に立寄ることなく、直接工事現場迄赴き、作業に当つていた。また被告小池が工事現場に行く際被告車に同乗させてやつたことも二度ないし三度あり、被告小池方の職人を工事現場迄便乗させてやつたことも一度あつた。かような工事現場への往復のほか、被告佐藤は右車購入時の意図どおり、休日のレジヤー用にも、被告車を利用し、友人を同乗させ、ドライブを楽しんだこともあつた。被告小池は、右レジヤーに関するその具体的行動は一々これを知つていたわけではなかつたが、被告佐藤の購入時における車種の選択から、被告車を業務以外の用途にも用いることを予定している点を感得したものの、これに異議を述べ、他の車種をすすめるようなこともせず、希望するにまかせていた。

(E) 被告車に関する経費の負担は、すべて被告佐藤に帰することとなつていたが、しかし、その支払方法は、ガソリン代などに至るまで、被告小池の利用する業者から購入していたこともあつて、同被告あてにまず業者より請求がなされ、同被告が被告佐藤に支払うべき下請工事報酬より差引いて支払う方法がとられていた。

(F) 被告小池と被告佐藤のタイルエ事請負契約の契約内容はいわゆる専属的な立場での下請業者となるものではなかつたものの、現実に、被告車購入時より本件事故時迄の間、被告佐藤は被告小池よりその間の仕事量として充分な工事を請負い、他の者の請負うようなことはまつたくなかつた。

(G) 本件事故は、被告佐藤がタイル工事にその前日午後七時頃迄従事し、一たん帰宅して後、被告車を運転して再び外出し、友人に会い、バーで飲食したうえ、帰宅途上惹起したものである。

(H) 本件事故後、被告車は被告小池の手で、被告佐藤の事前の承諾をうることなく、自動車販売業者に売却されるに至つているが、被告佐藤はこれを知つてのちも、なんらその措置に異議を述べていない。

以上のような事実が認められ、右認定に反する〔証拠略〕のうち、右認定に反する部分は、同被告がその立場にとらわれ事実を正確に供述していないものと判断できるので、これにより右認定を左右することはできないし、その他右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によると、被告車の所有権は実質的には被告佐藤にあつたとみうるけれども、しかし、<1>実質的には被告小池の専属的下請業者の立場にある被告佐藤が、<2>被告小池の業務場所といつた定在的な場所に赴くための通勤といつたものではなく、請負契約の都度異なる地点となる工事現場に道具類を携えて赴くことを第一の事由に所有するに至つた被告車を運転中惹起したのが、本件事故なのであるから、元請業者たる被告小池は、本来自己の営業領域活動であるべき、専属的下請人の請負工事完遂のために運行の用に供している車による事故についての運行供用者として、損害賠償責任を負わなくてはならない。

もつとも、既にみたとおり、本件事故は、被告佐藤において業務終了し一たん帰宅してのうえでの事故である点で、事故時には被告小池は運行供用者の地位から離脱している事態が考えられなくはない。しかし、<イ>本来元請人の営業の一部門が処理すべきはずの工事遂行に当る専属的下請人が業務に利用する車は、元請人にとつては本来自己所有車をもつてあてるべき運行を遂行する車とみるべきであるから、その車に対する運行支配は業務遂行に当る都度取得するものではなく、自己所有者と同様、包括的に取得し、第三者による明確な元請人の運行支配を排除する事実の発生があつて始めて、その運行供用者たる地位を離脱するものとみるべきところ、本件全証拠によるもかゝる事実を認めるに足りず、かえつて、前認定のとおり、本来事故時の運転者が被告佐藤であつたことよりみれば、その人的支配関係より被告車の運行支配は、いまだ被告小池にも存しているものと認められるし、<ロ>さらに、本件事案に即し、具体的に考察しても、前認定によると、被告小池は被告車についての諸経費の詳細を知りうる立場にあり、ガソリン代金額などから、レジヤー用として被告車が用いられていることを把握しうる立場にあつたこと、<ハ>それにもまして、被告小池は、購入時の被告佐藤の車種希望をなんら異議を述べることなく容認し、被告車が工事現場への往還以外に用いられることあるを、承知していたものと判断することができるので、現実に、被告小池は本件事故発生時におけるごとき被告車の運行について、これを知つて管理監督することは可能な立場にあり、その立場より被告車の安全な運行に留意しなければならなかつたものとみることができるので、事故時被告佐藤が業務を離れていたとの一事をもつて、被告小池の運行供用者責任を否定することはできない。

被告小池は、本件事故について、被告車の運行供用者として損害賠償責任を負わなくてはならない。

(ロ)  被告佐藤は、原告ら主張の請求原因事実第二項(二)、即ち同被告は被告車を運転し、事故場所付近を進行中、運転開始前飲んだ酒類のため、ハンドル操作を確実に行なうことができなくなり、道路左側でタクシー待ちをしていた亡邦保に自車前部を衝突させ本件事故をひきおこしているとの事実を争わない。右事実によると被告佐藤は本件事故について、不法行為者として損害賠償責任を負わなくてはならないことは明らかである。

(三)  (損害)

(1)  うべかりし利益

〔証拠略〕によると、亡邦保は昭和五年一月八日生の男性で、健康に恵まれ、本件事故時は訴外虫プロ商事株式会社に勤務し、編集製作部長兼雑誌編集長の地位にあつて租税控除後で年間にして金一八六万〇、三〇〇円の収入をえて、妻および満一一才の長男と満八才の長女と共に生活し、自己自身の生活費としては右収入の四〇%を費消する家計状態にあつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によると、亡邦保は、その健康度、職能そして年令からみて、事故後なお二三年間は年間の収入金一八六万〇、三〇〇円相当と評価しうる労働能力を維持しえたものと判断することができる。亡邦保は本件事故によりこれを失つたものであるから、前認定の生活費四〇%を控除したうえで、その事故時における現在価額を年別複式ライプニツツ方式で求めると、次のとおり金一、五〇五万五、五九四円(円未満四捨五入方式、以下同じ)となる。これが亡邦保の本件事故で失つたうべかりし利益である。

一八六万〇、三〇〇円×〇・六×一三・四八八五=一、五〇五万五、五九四円

原告鈴恵が亡邦保の生存配偶者であり、原告純および同絵里が亡邦保の子であり、相続人であることは、当事者ら間に争いなく、〔証拠略〕によると右原告三名が亡邦保の相続人のすべてであることが認められる。そうすると原告ら三名はいずれも右の三分の一に当る金五〇一万八、五三一円ずつを賠償請求しうる地位に立つことになる。

(2)  慰藉料

前記事故態様、原告らと亡邦保の親族関係、その他本件諸事情を綜合評定すると、本件事故で原告らの蒙つた精神的損害は、原告鈴恵においては金二〇三万七、〇六二円、その他の原告らは金九八万一、四六九円ずつ、をもつて慰藉するのが相当である。

(四)  (損害の填補)

本件事故後、これによつて生じた損害を填補するものとして、本訴提起前自賠責保険金五〇〇万円が支払われ、そのうち金三〇〇万円が原告鈴恵の、金一〇〇万円ずつがその余の原告らの、本件損害を填補するものとして弁済充当されていること、ならびに、被告佐藤より本件事故による遅延損害金以外の損害填補のため、原告鈴恵に対し金一万円が支払われていること、はすべて当事者ら間に争いなく、また原告鈴恵本人尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、右自賠責保険金も、遅延損害金以外の損害を填補するとの当事者間の合意の下弁済されていることが認められる。そうすると、原告鈴恵は前示うべかりし利益分金五〇一万八、五三一円と慰藉料金二〇三万七、〇六二円の合計金七〇五万五、五九三円より金三〇一万円を控除した金四〇四万五、五九三円を、その余の原告らは、それぞれ、うべかりし利益分金五〇一万八、五三一円と慰藉料金九八万一、四六九円の合計金六〇〇万円より金一〇〇万円を控除した金五〇〇万円ずつを、遅延損害金のほか、なお被告らに連帯して支払うことを求めうることになるわけである。

(五)  (結論)

以上のとおりであつて、被告らはそのほか、原告らの損害賠償請求権を全部又は一部理由なからしめる如き事実を主張立証しない。

そうすると、原告鈴恵は、本訴請求のうちなお、被告らに対し連帯して金四〇四万五、五九三円および(原告らの本訴付帯請求の趣旨は、遅延損害金以外の損害金請求権の既判力基準時に存する限度で、これにつき求めるものと解されるので)これに対する一件記録上本訴訴状が被告らのいずれにも、送達され終つた日の翌日である昭和四六年三月三日より完済迄年五分の割合による民事遅延損害金の支払を求めうるほか、被告小池に対してはなお金四〇四万五、五九三円に対する同被告への本訴訴状送達の日の翌日であること一件記録上明らかな昭和四五年一一月一六日より昭和四六年三月二日迄年五分の割合による民事遅延損害金の支払を求めうる。

またその余の原告らも、本訴請求のうちなお、被告らに対し連帯して各金五〇〇万円ずつおよびこれに対する前同昭和四六年三月三日より完済迄年五分の割合による民事遅延損害金の支払を求めうるほか、被告小池に対してはなお金五〇〇万円に対する前同昭和四五年一一月一六日より昭和四六年三月二日迄年五分の割合による民事遅延損害金の支払を求めうる。

原告らの本訴各請求は右の限度で理由があるので、この限りで認容し、その余は理由なく失当であるから棄却することにし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条第一項但書を、仮執行の宣言については同法第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 谷川克)

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